本研究はグスタフ・テオドール・フェヒナーの精神物理学的研究の内在的読解であり、実験的手法に基づく心理学の創成期における哲学と心理学の葛藤がフェヒナーのテクストの具体的な分析を通じて確証された。読解の対象となるテクストは、『ゼンド=アヴェスタ』(1851) と『精神物理学綱要』(1860) であり、極めて思弁的な性格をもつ前者でフェヒナーは精神物理学の法則について初めて素描し、後者でそれを経験的な方法に基づいて立証しようと試みた。一方で、『ゼンド=アヴェスタ』において提示されるのは、精神的秩序と物質的秩序が神と世界の一致において止揚される汎神論的な世界観である。他方、『精神物理学綱要』においては、精神と物質を媒介する項としての「精神物理的活動」が主題として提示され、精神と物質の関係性を経験的な方法に基づいて定立すべく、そうした領域にむけて探求が示される。しかしながら、本研究で読み取られたのは、そのようにして経験的な方法に基づいて探求がすすめられている場合においても、そうした探求を保証する上位進級としての汎神論的なテロスが要請されていることであり、「哲学的」な著作と「心理学的」な著作の双方を貫いて走る精神と物質の間の亀裂が、哲学と心理学の間に明確な分割線を設けることを困難にしていることである。